バンス副大統領は欧州を侮辱したのか
確かにミュンヘンでゼレンスキー大統領と会談したバンス副大統領は、あらためて停戦を促進していくトランプ政権の立場を強調した。トランプ大統領がロシアのプーチン大統領に電話をして停戦に向けた協議をすることで合意したことに、ウクライナのゼレンスキー大統領は強い不満を表明している。これまで「ウクライナは勝たなければならない」という立場を貫いてきた欧州の政治家たちにとっても、不満だ。そこでバンス副大統領の演説を、「欧州に対する侮辱」と受け止めた。そして欧州の政治家たちが、次々と感情的な反発を表明した。バンス副大統領は、ミュンヘンを訪問したにもかかわらず、ドイツのショルツ首相との会談を行わなかった。すぐに交代する、という考えによるものだったという。2月下旬に予定されている選挙で、連立政権を組んでいる社会民主党や緑の党は、極右とされるAfDの後塵を拝して、第三勢力に沈むと予測されている。
こうした点を考えると、バンス副大統領に、欧州の既存の政権担当者が感情的な反応をしたのも無理はない。だがそれはバンス副大統領も、計算済だろう。そこで「トランプ政権がAfDを助ける内政干渉をしている」といった赤裸々な反応も出ているのである。バンス副大統領が繰り返し参照したのは、ルーマニアの大統領選挙が無効になった事例だ。選挙で首位になったジョルジェスク氏が、親ロシア的な勢力の運動と結託していた、という理由で、選挙がやり直しになった。今や欧州では、ロシア寄りの言説に味方してもらっているかどうかが、大統領選挙の結果を無効にする理由になりうる。これは言論の自由を原則とする民主主義国のあり方としておかしいのではないか、という趣旨の主張を、バンス副大統領は行った。実際のところ、親ロシア勢力に支援されているかどうかは、政権担当の資質審査になりうる重大事項だ、というのが、既存の欧州の政治家たちの間の雰囲気だ。しかし、その雰囲気の閉塞感が、生活の現実における物価高などと重なり合って、極右と描写される新興の政党の得票数を伸ばす結果をもたらしているのも、現実である。
つまりバンス副大統領の演説が、既存の政治家層にとって看過できないものだったのは、新興の政治勢力に勢いを与え、自分たちの政治基盤を掘り崩す効果を持ちかねないものであったからだ。すでにそうした右派系の新興の政治勢力は、ハンガリーやスロバキアで、現実に政権を担当している。オランダでは第1党がそれに該当するし、その他の諸国でも軒並み存在感を高めている。欧州最大の人口と経済規模を持つドイツで、AfDが躍進すれば、この流れにさらに大きな弾みがつくことは間違いない。もっともその流れは、既存の政治エリートと新興政治勢力の間の摩擦を生み、混乱を伴うものになるだろう。バンス副大統領の演説の本質は、この状況がもたらす事態をにらんだものだったと言える。


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