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「啓発、ルールづくりを」 遺伝巡り差別的な言動  がんと難病で調査

 遺伝情報に基づいて診断や治療を進める「ゲノム(全遺伝情報)医療」が普及する一方で、問題となっているのが遺伝に関する差別的な言動だ。がんや難病の患者団体による実態調査では、友人や親族だけでなく医療者の言動で傷ついた事例もあった。当事者や専門家からは、社会への啓発強化や、遺伝情報を適切に取り扱うためのルールづくりを求める声が上がる。
 ▽多数の具体例
 東京大医科学研究所のグループは2017年と22年に一般市民を対象に遺伝を巡る差別について調査し、両年とも約3%が自身や家族で経験したことが「ある」と回答したと報告した。23年に施行されたゲノム医療推進法は、遺伝情報に基づく差別へ対応するために必要な施策を講じるよう、国に求めた。
 
遺伝を巡る差別の防止を訴える全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長=東京都港区

 具体的にはどうか。全国がん患者団体連合会(全がん連)と日本難病・疾病団体協議会は24年、患者を対象に遺伝に関する偏見・差別や不快な経験の実態を調査。がん患者延べ70人、難病患者延べ150人が回答した。

 がん患者からは「親族から、孫への遺伝の責任を問われる」「『子どももがんになるに決まっている』と言われた」などが寄せられた。「がんは遺伝だから、死ぬ覚悟で引き継ぎをするようにと上司に言われた」「遺伝性腫瘍の発症リスクを伝えると、生命保険加入を拒否された」との事例も。
 難病患者からは「親から『家系にそんな病気はいない』と言われ疎遠になった」「職場の人に呪いやたたりだと言われ、おはらいに連れていかれた」「婚約破棄された」などの訴えがあった。
 実際には、親から子に病気の発症リスクを高める要因が受け継がれる場合はあるが、必ず発症するとは限らない。生命保険協会と日本損害保険協会は審査で遺伝情報を使わない方針を示している。
 ▽医療者からも
 一方、調査では医療関係者の不適切な言動も報告された。「遺伝性腫瘍の検査は時間とお金の無駄」「遺伝子を発見しても治療できない」「乳がんになることが運命づけられた人たち」といった心ない発言だ。

 
 

 実際には、遺伝性の病気に対する治療薬は多数開発され、検査で原因となる遺伝子が分かれば効果の高い治療を受けられる可能性がある。

 全がん連の天野慎介理事長は「遺伝情報に接する人が増えた結果、差別を感じる人も増えたと思われる」と指摘。日本難病・疾病団体協議会の森幸子理事は「誰のせいでこうなったんだと犯人捜しをするような事例があり、つらかった」と述べた。2人は「遺伝情報に基づく偏見や差別はあってはならない。人権擁護の観点で国が周知する必要がある」と訴えた。
 東京科学大の吉田雅幸・生命倫理センター長(先進倫理医科学)は「遺伝に関する内容の伝え方には十分配慮が必要で、患者や家族の気持ちを医療者がくみ取らなければいけない。コミュニケーションが十分でない恐れがある」と分析する。
 ▽罰則や救済措置を
 ゲノム医療推進法の施行を受け、厚生労働省の作業部会が24年末に示した国の基本計画の骨子案では、教育や啓発の推進を含む差別や偏見への対策も盛り込まれた。
 ゲノム医療の法制度や倫理を研究する横野恵早稲田大准教授(医事法学)は、調査結果について「思っていたより深刻な事例が多い」と受け止め「医療現場で遺伝情報が不適切に取り扱われ、差別などの不利益が生じた場合の罰則や救済措置を定めるルールづくりが必要だ。保険や雇用などでは業界団体が具体的な指針をつくり、国と情報共有するのが現実的ではないか」と提案。差別が与える影響の深刻さを社会に知らせる取り組みが重要だと指摘した。(共同=岩村賢人)

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